多汗症(ワキ汗)治療のボトックス注射における保険適用について

抗加齢学会専門医/麻酔科認定医
コッツフォード良枝:監修

公開日:2020/05/19 更新日:2020/05/06

ワキ汗の量が多すぎることで悩んでいる人は多いのではないでしょうか。
そこでワキ汗を改善する手段としてボトックス注射が挙げられますが、ボトックス注射と言えば美容系のイメージが強く、治療費が高額になってしまうと思ってしまうこともあるでしょう。
しかし、ボトックスは一部のケースなら保険が適用されます。
そこでここでは、多汗症治療でボトックス注射を使用するにあたって保険が適用されるケースについて解説します。

多汗症(ワキ汗)について

多汗症(ワキ汗)について
最初にワキ汗とはどんな原因で出てくるものなのか、多汗症とただのワキ汗はどのように違うのか見ていきましょう。

多汗症(ワキ汗)とは

元々ワキは他の部位と比べて汗腺が多いです。
したがって、ただでさえ他の部位と比べて汗をかきやすいと言えるでしょう。
また、汗は通常だと運動をして体温が上昇したり、外の気温が上がったりすることで体温を調節するためにかくものです。
これに関しては人間として生きていくうえで必要な生理現象と言えるでしょう。
それだけでなく、精神的なストレスや、緊張が原因となって汗をかいてしまう人もいます。
特にこのような精神的な原因で汗をかいてしまう人は、人前で汗をかいてしまうことに対する恐怖心を抱くことが多く、それが原因となってさらに汗をかいてしまうというケースも少なくありません。

汗は99%が水分、残りの1%がミネラルや電解質などの物質と言われています。
そして、通常だと汗は汗腺でろ過され、ほとんど水分となった状態で外に出ていきます。
この状態なら汗のほとんどが水分なので、特に臭いは感じません。
しかし、汗腺のろ過機能がしっかり働かない状態になってしまうと、残りの1%である水分以外の物質も汗に含まれた状態で排出されてしまいます。
しかも電解質・ミネラルを含んでいるのでさらっとした汗ではなくドロドロしているという特徴もあり、これが原因で汗をかくことに不快になってしまう人も多いでしょう。
それに加え、ろ過機能がしっかり働かない状態だと本来健康に過ごすために必要なミネラルも出て行ってしまうので、疲れやすくなってしまうなどといったデメリットもあります。

そして、このような悪い汗を放置すると、汗に含まれている物質や皮脂が脇の常在菌と反応して菌が繁殖し、さらに嫌な臭いになってしまいます。
汗が原因の不快な臭いが服などに残ってしまうのはこれが原因です。
これを改善するためには、普段から汗腺機能を鍛えることが大切と言えるでしょう。
そこで汗腺機能を鍛えるには、生活習慣を見直して健康的で規則正しい生活を送り、適度に運動することが良いとされています。
特に普段の生活の中でたくさん汗をかくことは、汗腺機能を鍛えることに繋がるので、運動をする時はたくさん水を飲んで汗をかくようにする、ショウガや玉ねぎなど発汗作用のある食べ物を多く食べるなどするのがおすすめです。

多汗症によるワキの臭い

多汗症によるワキの臭い
ワキガの正式名称は「腋臭症(えきしゅうしょう)」と言います。
汗腺にはアポクリン腺とエクリン腺の2種類があります。
エクリン腺は全身に存在しており、体温調節のためにかく汗が分泌される部位なので、ここから出る汗は基本無臭です。
それに対して、アポクリン腺はワキの下など限られた部位に存在しており、脂質やたんぱく質なども含んでいて色も白いという特徴があります。
そしてワキガはアポクリン腺から分泌された汗に含まれている皮脂や老廃物が、先ほど解説したように脇にある常在菌と反応することによって嫌な臭いを放ってしまいます。

脇の下にはアポクリン腺とエクリン腺の両方が存在しているため、他の部位よりも汗をかきやすいです。
それ故に蒸れやすく、常在菌が繁殖しやすい環境であることから、ワキ汗は他の部位の汗よりも臭いやすいと言われています。
汗の臭いが気になってしまう症状が出る病気として、性器周りの汗の臭いが気になるスソワキガが挙げられますが、これの仕組みもワキガと同じです。

多汗症による汗じみ

特に夏場は暑くて汗の量が多くなってしまいます。
そこでワキの汗ジミが気になって濃い色の服が着られないなどして、汗のせいでオシャレが楽しめないという人もいるでしょう。
そこでこの段落では汗が気になる人におすすめの対策を紹介します。
まず簡単にできるのがワキ汗パッドでしょう。
洋服のワキの部分に貼るだけで汗を吸収してくれるので、手軽にワキ汗を目立たせなくすることができます。
カラー展開もサイズもさまざまであることから、洋服の色や形に合わせて選ぶことで汗を気にせずオシャレを楽しめます。
ドラッグストアなどで手軽に入手できる点も良いでしょう。

ただ、通常のワキ汗パッドだと洋服に貼り付けるだけなので、ズレることが気になるという人もいます。
そこで便利なのがワキ汗パッドとインナーが一体型になっているワキ汗パッド付インナーです。
これを着用する場合、着ることができる服は限られてしまうものの、ワキ汗パッドのずれを気にすることなく快適に過ごせます。

それに加え、制汗剤も活用することでより汗によるシミを防ぐことができるでしょう。
制汗剤には、汗を抑える成分を含んだ吸れん剤と、汗を吸着する成分を含んだ吸収剤の2種類があります。
ただ、大手のメーカーが販売している制汗剤は吸れん剤と吸収剤の両方の成分を含んでいることが多いので、この違いはそれほど気にする必要はないでしょう。
また、制汗剤にはスプレータイプやシートタイプ、ウォータータイプなど、様々な種類があることから、汗の量が特に多い時はシートタイプで一旦汗を拭いた後にウォータータイプを使うなど工夫するのがおすすめです。

制汗剤に似たものにデオドラント剤が挙げられます。
ただし、デオドラント剤は制汗剤と違って、消臭を目的としたものなので、汗の量を抑える効果は期待できません。
場合によってはデオドラント剤と汗の臭いが混ざってさらに不快な臭いになってしまうこともあり、汗の量だけでなく臭いも気になるなら使用する際は注意しましょう。

腋窩(えきか)多汗症とは

腋窩(えきか)多汗症とは
腋窩(えきか)とは、脇の下のくぼんでいる部位のことを言います。
この部位に汗をかいてしまうものの、原因はわからないことを腋窩多汗症と呼び、原因に関しては精神的なストレスなどが多いです。
人間は緊張状態になると汗をかきます。
この原因は交感神経が関係しており、交感神経が必要以上に過敏になってしまうと常に緊張しているような状態になり、汗が止まらなくなってしまいます。
精神的なストレスを感じていると、この交感神経が過敏になりやすく、腋窩多汗症はストレスの原因を解決することで改善することが多いです。
ただし、精神的なストレスが蓄積している状態だと、簡単に解決できないでしょう。

腋窩(えきか)多汗症は保険が適用される

重度の腋窩多汗症には保険が適用されます。
そのため、医療費が高額になってしまうと考えて治療を躊躇っている人も安心して治療が受けられるでしょう。
腋窩多汗症を改善したい場合は、一般的には心療内科を受診することとなります。
そして、医師から「半年以上症状が続いていること」に加え、「ワキ汗が生活に悪影響を及ぼしていること」「25歳になる前から症状が出ていること」「睡眠時は問題ないこと」「親なども同じ症状を抱えていること」「両脇から同じ量の汗が出ること」「大量の汗をかくのが週に1回以上であること」の6つの条件のうち2つ以上に当てはまれば、腋窩多汗症と診断される可能性が高いです。

また、腋窩多汗症は汗が気になって学校や職場など人がいる場所に行くのが苦痛になる、必要以上に服を着替える癖がつくなどといった精神的なストレスによる症状も出ます。
この場合は重度の腋窩多汗症と診断されるケースが多いです。

ボトックス注射による多汗症治療

ボトックス注射による多汗症治療
腋窩多汗症の治療法には塗り薬・内服薬・ボトックス注射・手術など様々な方法があります。
中でも一部の手術法と、ボトックス注射は保険が適用されるので、費用面で心配する必要が無いでしょう。
ボトックス注射での腋窩多汗症の治療は、ボツリヌス毒素から抽出した成分をワキの下に注入することで、汗の量を抑えることができます。
ただし、汗の量を減らすことはできても、汗そのものの臭いを改善するのは難しいです。
したがって、汗の量が多くて悩んでいる場合はボトックス注射、臭いが気になる場合は手術を勧められるケースが多い傾向にあります。

ボトックス療法について

ボトックスとは、ボツリヌス菌から抽出されたタンパク質の一種です。
このボトックスには汗が出る原因であるアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質の働きを鈍らせることができます。
それによって、汗の出る量が減ることが期待できるでしょう。
ボトックスが登場するまでのワキ汗の改善策として手術という選択肢がありましたが、手術を行ってしまうと手術痕が残ってしまったり、ダウンタイムが必要で仕事ができない、運動も一定期間禁止とされてしまうなど日常生活に支障が出てしまったりします。
それに対してボトックス注射の場合はワキの下に注射を打つだけなので、施術時間は10分程度でダウンタイムも必要ありません。
このように手軽にワキ汗を改善することができるのがボトックス注射の魅力と言えるでしょう。

ボトックス注射を行うと、2~3日程度で効果が見られるとされます。
ただし、一度ボトックス注射を打ったら一生汗を気にする必要が無くなるというわけではありません。
効果は一般的に4ヶ月~9ヶ月程度と言われており、効果が切れ始めたら再度ボトックス注射を打たないとまた症状が出てきてしまいます。
また、ボトックスに対して耐性ができてしまうので、施術回数が多くなればなるほど効果の持続期間も短くなっていきます。
それに、腋窩多汗症は精神的なストレスが原因であることが多く、この場合根本的な原因を改善しない限り症状が一切でなくなるというのは難しいでしょう。
したがって、ボトックス注射を行う場合は並行してカウンセリングを受けるのがおすすめです。

また、ボトックス注射はエクリン腺に打つもので、アポクリン腺に対する効果は期待できません。
そのため、先ほど解説した通り、汗の量は抑えることができても、汗そのものの臭いを改善するのは難しいです。
したがって大量の汗が出てきた時に脇が臭ってしまう場合は汗が多いことが原因である可能性が高いのでボトックス注射が有効と言えますが、汗そのものが臭い場合は、塗り薬や内服薬で改善していくか、アポクリン腺を除去する手術を行いましょう。

それに加え、費用については次の段落で解説していきますが、ボトックス注射は定期的に打つ必要があるため、治療が長期になると保険が適用されるとは言え、それでも費用が高額になってしまう可能性があります。
したがって、ボトックス注射による腋窩多汗症の治療を考えている場合は医師としっかり相談したうえで治療法を選択しましょう。

また、「ボトックス」という名称は商品名であり、正しくは「ボツリヌストキシン製剤」と言います。
このボツリヌストキシン製剤は国から認可されているものとされていないものがあり、安全性を重視して治療を行いたいなら認可されているものを選びましょう。
ちなみに、腋窩多汗症の治療に使われるのは、グラクソスミスクライン社のボトックスが多いです。

このようにボトックス注射は手軽にできる腋窩多汗症の治療法ですが、デメリットもあります。
したがって、メリットだけでなくデメリットも理解したうえでボトックス注射による治療を受けてください。

治療の流れと費用

治療の流れと費用
それでは、ボトックス注射による腋窩多汗症の治療の流れを見ていきましょう。
まず安全に治療を進めるために、ボトックスを注入する部位を消毒します。
消毒が完了したら、麻酔クリームを塗布し、麻酔が効くまで20分~30分ほど待ちます。
この際に麻酔なしで行うこともできますが、麻酔なしはかなりの痛みを伴うのであまりおすすめしません。
そして麻酔が効いたら冷却しながらボトックスを両脇に注入して施術完了です。
したがって、ボトックス注射の施術時間は麻酔が効くまでの時間を考えると、30分~1時間程度と思っておくと良いでしょう。

そして、ボトックス注射の費用は1回につき5万円~10万円程度が相場となっています。
クリニックによって料金が異なるのでしっかり確認したうえで利用するクリニックを決めましょう。
そして、先ほど解説した通り腋窩多汗症の治療でボトックス注射を利用する場合は保険が適用されます。
一般的な保険適用時の自己負担分の割合は3割なので、保険が適用される場合は1回につき1万5000円~3万円程度と思っておきましょう。

ボトックス注射は専門の美容皮膚科へ相談

ボトックス注射は専門の美容皮膚科へ相談
汗に関する悩みは病院へ行くほどではないと思っていたり、なかなか相談できなかったりすることもあります。
しかし、私生活に支障が出るレベルになってしまっているならなるべく早く病院へ行くべきでしょう。
汗に関する悩みは場合によっては保険が適用され、表示価格よりも安く治療できることもあります。
したがって、ワキ汗で悩んでいるなら治療に対応している美容皮膚科や相談に乗ってくれる心療内科へ行ってみましょう。