iPS細胞で一躍脚光を浴びた再生医療ですが、その中でも話題になっている「PRP療法」についてご存じでしょうか。
これは、ヤンキースの田中将大投手なども受けている新しい治療法です。
PRP療法がこうした有名スポーツ選手に選ばれるのには理由があります。
ここでは、スポーツ選手だけではなく一般の人にもメリットの大きいPRP療法の概要や効果について解説していきます。
目次
PRP療法とは
PRP療法は、損傷した臓器や組織を再生させる「再生医療」の中の一つです。
再生医療では患者さんの体から採取した幹細胞を培養して新たな臓器を作り出し移植する、という方法が有名ですが、PRP療法では幹細胞ではなく患者さんの血液を使用します。
PRPとは「多血小板血漿」のことで、患者さんから採取した血液の中から血小板だけを高濃度で抽出したものです。
これを患部に注射することで治療を行っていきます。
血小板には、けがをして出血した際に血を止める止血の作用があることは古くから知られてきました。
しかし医療の発達により、血小板には止血の他に損傷した組織を修復する、つまり傷を治す働きもあることがわかってきたのです。
再生医療の一分野ということで最近開発されたようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実は臨床で応用され始めたのは1970年代と比較的歴史のある治療法です。
PRP療法は、スポーツ医学の分野では肘や膝、靭帯損傷、骨折などの治癒を早めるために行われています。
靱帯損傷や骨折の治療では、それまではギプスなどで固定して自然に治るのを待つしかありませんでした。
また、肘・膝・アキレス腱の炎症にはステロイド剤が用いられていましたが、PRP療法の導入によりステロイド剤は不要となり、治療期間も短縮することができるようになっています。
海外では2000年ごろからスポーツ医学の分野で盛んに使われるようになりましたが、その後日本でも多くの医療機関が取り入れるようになり、スポーツ医学の他に美容医療や歯科、皮膚科などさまざまな分野で応用されています。
血小板とは
人間の血液は血球と血漿から成り、このうち血球には赤血球・白血球・血小板の3つの種類があります。
赤血球は酸素を全身に運び、白血球は細菌やウイルスが体内に侵入した際にこれに対抗して体を守る、いわゆる「免疫」の役割を果たすのはよく知られたところでしょう。
そしてPRP療法に用いられる血小板には、止血作用とともに損傷した組織を修復する作用があります。
血小板が傷を治すことができるのは、「成長因子」を放出するからです。
成長因子には様々な種類があり、骨の細胞を増やすもの、筋肉の傷ついた細胞を修復するもの、そして新たな血管を生成するものや細胞分裂を促進して組織の修復を高めるものなど、それぞれに異なる作用を持っています。
炎症を抑える働きのあるものもあり、これは炎症に伴う痛みを抑えることもできます。
PRP療法には、こうした血小板の持つ作用が利用されているのです。
人間のいわゆる「自然治癒力」の一端を担うのがこの血小板であるということができますが、とはいえ自然治癒力のみに頼っていては治癒までかなりの時間がかかってしまいますし、痛みもなかなか治まりません。
そこで血小板の持つ力を最大限に引き出すため、血液中から血小板を取り出し濃縮・活性化させたのがPRPです。
PRPに含まれる血小板の数は通常の血液の3~5倍といわれています。
PRP療法のメリット
PRP療法の特徴について説明しましたが、こうした特徴を持つPRP療法には一体どんなメリットがあるのでしょうか。
3つの大きなメリットについてご紹介します。
効果の持続性
PRP療法は、比較的早い段階で痛みを緩和し、さらにそれを長期間持続できるというのが大きな特徴の一つとなっています。
痛みの緩和というのは、実は治療を進めていく上では非常に重要なものです。
慢性的な痛みに悩まされている患者さんは、動くと痛むという恐怖感からついつい患部をかばい、なるべく動かさないでおこう、運動しないでおこうと思ってしまいます。
しかし、筋肉というのは使わないでいると衰えてしまうものです。
特に膝の痛みに悩んでいる人の場合、本来膝への負担を和らげるはずの太ももやふくらはぎの筋肉が低下することで、かえって痛みがひどくなってしまうことにもなりかねません。
PRP療法では治療開始から比較的早い時期に痛みが和らぐため、患者さんは痛みへの恐怖から解放され、前向きに治療に取り組めるようになります。
その結果、痛みに負けない膝を作っていくことができるのです。
PRPには痛みの原因となる関節内の状態を整える作用もあるため、効果が長期的に続くことが期待できます。
副作用のリスクの低さ
けがや病気の治療で薬品等を使うときに気になるのが副作用です。
その点でも、PRP療法は優れた治療法であるといえます。
PRPは元々患者さん自身の体内にあった血液から血小板を濃縮したものなので、副作用が出にくいという特徴があるのです。
膝の痛みの治療では、ヒアルロン酸やステロイドの注射がよく行われています。
ヒアルロン酸も副作用の少ない成分ではありますが、なかなか効果が持続しないという欠点があります。
ステロイドには高い鎮痛効果がありますが、一方で軟骨の代謝を抑制してしまう作用があり、続けていくと軟骨が破壊されてしまうリスクがあることは否めません。
軟骨が減ってしまうと、痛みはさらに悪化します。
PRP療法ではこうした副作用が出ることはありません。
反応痛といって、注射後に成長因子が一時的に炎症を起こすことで痛みを感じることはありますが、これは成長因子が正常に浸透し作用している証拠なので心配は要りません。
反応痛は概ね数日~1週間程度で自然に収まります。
手術や入院の必要なし
PRP療法はメスを使わない治療法です。
採血し、遠心分離によってPRPを作成し、そして注射するまで大体1時間程度で済みます。
従ってもちろん入院は不要で、日帰りで治療を受けることができます。
採血量はそれほど多くなく、30ml程度が目安です。
スポーツ選手が肘や膝を痛めて手術をした、というニュースを耳にしたことのある人も多いでしょう。
このような外科手術を行った場合、術部の回復まで時間がかかるため、選手は長期間の戦線離脱を強いられることになります。
プロスポーツ選手にとって試合に出られないというのは非常に辛いことですし、傷が治った後には厳しいリハビリにも取り組まなくてはならず、その負担は大変大きいものです。
そうしたスポーツ選手にとって、体に負担の少ない低侵襲の治療法であるPRP療法はとても魅力的なものです。
入院の必要がなく長期間のブランクも避けられるPRP治療は、まさに夢の治療法といえるでしょう。
PRP療法が対応できる症例
このようにPRP療法には様々なメリットがあります。
その点を踏まえて、PRP療法が特に向いている症例について解説します。
スポーツ外傷
スポーツにけがは付き物といっても過言ではないかもしれません。
準備運動をしっかり行い、気を付けてプレイしていても何かの拍子にけがをしてしまう可能性はあります。
中でも肉離れ(筋不全断裂)や骨折といった突発的に起こるスポーツ外傷は、避けることの難しいものです。
これらのけがは、これまでに確立された治療法があり、それに従ってきちんと治療すれば治すことができます。
ただ治癒までにはそれなりに時間がかかるため、プロ選手や学生スポーツの選手など、早く復帰したい人にとっては非常に悩ましいところでしょう。
そこで効果を発揮するのがPRP療法です。
PRP療法は言うなれば自己治癒能力を活性化するもので、治癒のスピードを大幅にアップすることができます。
それにより早期に復帰することも可能になるため、テニス、陸上、バスケットボール、サッカーなど様々な分野のスポーツ選手が治療を受けています。
スポーツ障害
突発的なけがであるスポーツ外傷と異なり、慢性化している「スポーツ障害」は治りにくくなっていることも多いものです。
例えばいわゆるテニス肘やゴルフ肘と呼ばれるもの、バレーボールやバスケットボールなどジャンプすることが多い競技を行う選手に見られるジャンパー膝、それに足底腱膜炎やアキレス腱障害といった症状にもPRP療法が効果を発揮します。
スポーツ障害が治りにくいのは、同じ部位を繰り返し動かすことで、その部位自体が治りにくい環境になってしまっているからです。
つまり、本来持っているはずの自己治癒力がうまく働かない状態です。
ここにPRPを注入すると、血小板の力で損なわれた自己治癒力が回復し、けがを治す環境を再び獲得することができます。
慢性化して諦めていた症状も、完治を目指すことができるようになります。
膝の変形・痛み
PRP療法が適しているのはスポーツによるけがや慢性的な障害だけではありません。
膝の変形や痛みが生じる変形性関節症にも適しています。
変形性関節症は、加齢などが原因で関節にある軟骨がすり減り、半月板が傷んだり関節が変形したり、あるいは関節の骨が摩擦による炎症を起こして水がたまるなどの症状を起こすものです。
これまで変形性関節症の治療では、痛み止めの内服や、関節の滑りをよくするヒアルロン酸の注射などが行われてきましたが、必ずしもすべての人に効くものではありませんでした。
PRP療法ではこうした従来の方法で効果が見られなかった人でも、痛みを取ることが可能になっています。
また、単に痛みを取るだけでなく組織の修復を促したり、炎症を抑えたりすることができるのもPRP療法の大きな特徴です。
ただし、血小板はあくまで組織の修復を促すものであってそれ自体が軟骨や半月板になるわけではないので、すでに軟骨がなくなったところに注射をしても軟骨を作ることはできません。
こんな人におすすめ
現在治療を受けているがなかなか痛みが改善しない、という人にはPRP療法が良いでしょう。
炎症を抑える力が強いので、比較的早期に痛みが治まります。
痛みが治まることで日常生活が楽になり、また完治へのモチベーションも上がります。
効果も一時的なものではなく長期間にわたって続くので、そうした治療を希望する人にもおすすめです。
自身の血液を使っているため、安全性が高くリスクの少ない治療を希望する人にも良い治療法です。
また、短時間の日帰り治療が可能なので、手術や入院をしたくないという人にも適しています。
仕事が忙しく休めない人や、ブランクを作りたくないスポーツ選手などに向いているといえるでしょう。
肉離れや骨折などの突発的なけがを早く治したい人はもちろん、慢性化した痛みや古傷を抱えている人にもPRP療法は適しています。
自己治癒力を活性化することで、けがを治しやすい環境に整えることができます。
美容分野でも注目されている!
様々なけがや炎症、痛みなどの治療に効果を発揮しているPRP療法ですが、実は美容の分野にも取り入れられて注目されています。
美容医療でPRP療法が導入されているのは、主にアンチエイジングの分野です。
しわやたるみなど、加齢に伴う肌の衰えによって現れる症状の治療に、PRP療法が役立っています。
しわやたるみの治療は、従来外科手術を行ったり、ヒアルロン酸やコラーゲンを注入するといったやり方が主流でした。
しかし外科手術は患者さんの体にかかる負担が大きく、ヒアルロン酸等の注入は持続期間が短いため何度も繰り返す必要があるといったデメリットがあります。
こうしたデメリットのない新たな治療法としてPRP療法に注目が集まっているのです。
PRPには様々な「成長因子」が含まれていることは解説しましたが、その中には肌細胞を活性化させる作用を持つものも含まれています。
たとえばしわやたるみといった症状は、肌のハリを支えるコラーゲンやエラスチンの産生能力が加齢により衰えたために発生しますが、PRPを注入することによってこれらの成分を生み出す細胞の力を活性化し、産生量をアップさせることができます。
その結果、症状の改善につながるというわけです。
人工的な処置ではなく肌の持つ力そのものを活性化させるため、本当の意味での若返り治療ということができます。
効果の持続期間も、ヒアルロン酸注射が約6カ月なのに対し概ね1~3年と長いのが特徴です。
採血から注射まで1日で済み、メスを使わないのでダウンタイムも必要なく、日常生活に支障をきたすことはありません。
また、効果はゆっくりと自然な形で現れるので、周りの人に気付かれる心配もありません。
自分の血液を使用するのでアレルギーや感染症等の心配がないのも大きなメリットです。
元気な生活を取り戻したい人に
注目の再生医療「PRP療法」について、その仕組みと効果を中心に解説してきましたが、理解できたでしょうか。
副作用のリスクがほぼなく、手術や入院をすることなく効果的な治療ができるなど、PRP療法には多くのメリットがあります。
スポーツ選手はもちろん、膝の慢性的な痛みを抱え生活に不便を感じている人にもぜひ受けてもらいたい治療法です。