医療・美容で活用される幹細胞を使った再生治療って?治療の種類・方法

抗加齢学会専門医/麻酔科認定医
コッツフォード良枝:監修

公開日:2020/07/03 更新日:2020/07/03

人間の持つ自然治癒力には、幹細胞が大きく関わっています。
また、幹細胞を使った再生治療は、怪我や病気の治癒だけでなく、美容にも効果があることで注目されています。
ここでは、幹細胞の特徴や治療法について詳しく紹介していきます。
そのため、再生治療に興味がある方や、治療を検討している方にとって、有益な情報になります。

再生医療とは

再生医療とは
再生医療とは、人体の細胞の一部から、損傷した機能や組織を回復させる医療のことです。
患者さんから少量の細胞を採取し、幹細胞などを培養・増殖させたあと、再び患者さんの体内に戻すことで怪我や後遺症などを治癒します。
人が持つ再生力を活かした治療法で、患者さん自身の細胞を使うため、拒絶反応などのリスクが低く、安全性が高いことが特長です。
また、手術では治癒が難しい傷や、治療法が定まっていない病気にも有効な技術として注目されています。
さらに、肌細胞を活性化させて移植することで、加齢で減少した肌細胞を増やし、シワやたるみを改善する効果もあります。
それに、体の内側から改善されるため、効果が持続しやすいメリットもあるのです。

幹細胞とは

再生医療で使われる幹細胞は、人が体内に持つ細胞の一つで、成長したり、健康を保つうえで欠かせない存在です。
では、具体的にどのような細胞なのか紹介していきます。

幹細胞の特徴

幹細胞とは、組織や臓器になる前の未分化の細胞のことです。
減少した血液を補充して一定量を保ったり、傷ついた皮膚や臓器を回復させることなどができます。
人の細胞には寿命があるため、常に新しい細胞が作られ続けています。
特に、皮膚や血液などの細胞は寿命が短いので、同じ細胞を複製して補い続ける必要があります。
また、怪我や病気で損傷を受けた細胞を修復するのも、幹細胞の役割です。

幹細胞は、通常は全身に点在していますが、傷付いたり減少した細胞があると、血液の流れに乗って集まる性質を持っています。
集まった幹細胞は、移動先の組織や臓器に変化し、細胞分裂を繰り返しながら失われた細胞を補充するのです。
また、幹細胞は老化した細胞も修復します。
そのため、体外で培養・増殖した幹細胞を投与することで、もろくなった血管や機能が低下した臓器を回復させ、老化を緩やかにする効果があるのです。
このように、幹細胞には、病気や怪我の治癒、アンチエイジングなどのさまざまな働きがあり、医療と美容の両方で関心が寄せられているのです。

「多能性幹細胞」と「組織幹細胞」に分けられる

「多能性幹細胞」と「組織幹細胞」に分けられる
幹細胞には、多能性幹細胞と組織幹細胞の2種類があります。
多能性幹細胞は、人の体にある全ての組織や臓器になることができる細胞です。
柔軟性が高く、損傷した部位に応じて形を変化させることができます。
細胞は、分裂を繰り返すことで大きくなり組織化しますが、一度細胞分裂を終えてしまうと、他の組織に変化させることができなくなります。
たとえば、脳が肝臓になったり、心臓が腎臓になったりすることはできません。
しかし、分化する前の幹細胞は、役割が決まっていないので、必要に応じて形を変えられる万能性を持っています。

いっぽう、組織幹細胞は、皮膚、脂肪、血液などを形成している細胞です。
これらの細胞の寿命は短いため、常に新しい細胞を作り続け、入れ替えたり補充したりしながら一定量を維持しています。
また、ほとんどの組織幹細胞には、多能性幹細胞のような柔軟性はなく、造血幹細胞は血液系の細胞、神経幹細胞なら神経系の細胞というふうに、ある程度の区分が存在します。

倫理面で課題のある「ES細胞」ってどんなもの?

倫理面で課題のある「ES細胞」ってどんなもの?
「ES細胞」とは、人工的に作り出した多能性幹細胞のことです。
卵割した受精卵から細胞を取り出し、シャーレで培養して作ります。
1981年にマウス実験で成功し、1998年にはヒトでも成果を出しました。
ただし、患者さんの細胞ではないため、拒絶反応のリスクがあります。
しかも、ES細胞を取り出す為には、人になり得る受精卵を破壊する必要があり、倫理的問題があるのです。
ES細胞は、長期保管が可能で、任意の細胞への分化にも成功しています。
しかし、受精卵を使うことに抵抗がある人も多く、一部の国ではES細胞に規制をかける動きもあり、普及には至っていません。

多能性幹細胞の代表格「iPS細胞」ってどんなもの?

多能性幹細胞といえば、最も有名なものが「iPS細胞」です。
テレビや新聞でもたびたび取り上げられているため、名前を訊いたことがある人は多いのではないでしょうか。
では、実際にはどんな細胞なのでしょうか。
詳しく解説していきます。

iPS細胞とは

iPS細胞は、2006年に京都大学の山中伸弥教授らが作り出した新しい多能性幹細胞のことです。
iPS細胞を作るには、まず人の皮膚や血液から細胞を採取します。
そこへ「山中4因子」と呼ばれる4つの遺伝子を注入し、培養することでできあがるのです。
従来のES細胞と異なるのは、受精卵を使わずに作れることです。
また、性別や年齢を問わずに作成できるほか、患者さん本人のiPS細胞を作成して拒絶反応のリスクを減らすことも可能です。

iPS細胞の研究は、2006年から大きく発展し、治療の効果や安全性が確立されつつあります。
2014年には、iPS細胞から網膜を作って移植する臨床実験が行われました。
また、iPS細胞から難病治療薬を作る研究も行われており、進行性骨化性線維異形成症の治療薬の研究も始まっています。
iPS細胞は、まだ研究段階ですが、医療技術として確立されれば、新たな治療の選択肢を増やすことに繋がります。
それに、完治が難しい病気や後遺症への有効なアプローチとしても注目が集まっています。

メリット・デメリット

メリット・デメリット
iPS細胞を使う治療には、メリットとデメリットがあります。
まずメリットは、受精卵を使わないので倫理的問題が起らないことです。
そのため、1つの生命を利用することに抵抗がある患者さんでも、ストレスなく治療を受けることができます。
また、ES細胞では、受精卵を作る為に男性の精子が不可欠でしたが、iPS細胞では使用しないため、異性の遺伝子に対する拒絶反応のリスクを無くすことができるのです。

いっぽうデメリットは、作り出したiPS細胞の中に未分化の細胞が残り、腫瘍が形成されてしまうリスクがあることです。
そのため、iPS細胞の未分化を防ぐ為の培養・増殖に関する研究が進められています。
また、iPS細胞を作製する為には1年以上の時間や、多額の費用がかかることも挙げられます。
このように、iPS細胞には新たな治療法が確立される可能性がある反面、課題もあり、実用化されるには更なる研究が必要なのです。

組織幹細胞の「間葉系幹細胞」には「多分化能」があることが分かった!

組織幹細胞は、血液や皮膚などを作る細胞です。
例えば、表皮幹細胞は皮膚系の細胞、神経幹細胞なら神経系の細胞というように、ある程度の区分が決まっており、その範囲内でしか変化することができないとされてきました。
しかし、組織幹細胞の一つである間葉系幹細胞には、異なる性質があることが分かったのです。
では、どのような違いがあるのか解説していきます。

骨髄の中にある「間葉系幹細胞」

骨髄の中には、間葉系幹細胞と呼ばれる組織幹細胞が含まれています。
間葉系幹細胞は、通常の組織幹細胞とは異なり、筋肉、軟骨、神経などに分化する、多分化能を持っており、受精卵の段階で生成されます。
受精卵は、早い段階で外胚葉、中胚葉、内胚葉の3つに分かれ、外胚葉からは脳や脊髄、中胚葉からは軟骨や筋肉、内胚葉からは臓器を形成します。
間葉系幹細胞は、中胚葉から生まれた組織幹細胞で、区分を持たずに筋細胞や軟骨細胞などに変化できる性質を持っています。
そのため、再生医療への導入に期待が高まっているのです。

間葉系幹細胞を用いた再生医療は、受精卵を使わないため倫理的問題もなく、腫瘍化しにくい特長があります。
しかし、間葉系幹細胞は、骨髄の中に微量にしか含まれておらず、培養する為に必要な数の確保が難しいのです。
そこで、間葉系幹細胞の増殖能力を上げ、少量でも組織が形成できるように研究が進められています。

似た細胞「脂肪由来間葉系幹細胞」も発見

似た細胞「脂肪由来間葉系幹細胞」も発見
脂肪由来間葉系幹細胞は、腹部の皮下脂肪に含まれる組織幹細胞で、2000年に米国のマーク・ヘドリック博士によって発見されました。
筋肉、軟骨、神経などへの多分化能があるほか、骨髄由来のものとは異なる特徴を持っています。
まず、骨髄中の間葉系幹細胞は、微量にしか含まれていないので、培養する為には大量の髄液が必要でした。
ですから、髄液を採取するためには全身麻酔をかける必要があり、患者さんへの負担も大きいのです。
しかし、脂肪由来間葉系幹細胞は、含有量が多いため、10g程度の脂肪を採取するだけで培養が可能です。
採取の方法も、局所麻酔をかけて腹部をわずかに切開するだけなので、患者さんへの負担も少なめです。

脂肪由来間葉系幹細胞のメリット

間葉系幹細胞は、腹部の脂肪、骨髄、臍帯血などから発見され、中でも脂肪由来のものに注目が集まっています。
間葉系幹細胞には、体を形成する骨や筋肉、感覚を司る神経、生命維持に欠かせない脂肪などに分化する能力があり、どの部位から採取しても治療を行うことは可能です。
けれども、骨髄には微量にしか含まれないため、培養に必要な間葉系幹細胞の確保が難しいのです。
また、臍帯血にしても、出産時にしか採取することができない問題があります。

しかし、脂肪由来の場合には、摂取できる期間や年齢が限られておらず、誰でも行うことができます。
また、腹部の脂肪に含まれる間葉系幹細胞は量が多いため、少量の脂肪から十分な細胞を採取することが可能です。
それに、他の部位の間葉系幹細胞と比べて増殖能力が高く、老化による骨分化能の低下なども見られない特長があります。
さらに、血管や臓器を修復する因子の数も多く、高い治癒能力も持っています。
このように脂肪由来間葉系幹細胞には、リスクが少なく、質の高い治療が行えるメリットがあるのです。

脂肪由来の幹細胞の活用

脂肪由来の幹細胞の活用
脂肪由来の幹細胞を使った治療効果には、主に5つあります。
1つ目はアンチエイジングです。
幹細胞は、肌細胞の活性化を促すため、肌のハリや潤いを改善し、特に深いシワに対して高い効果を発揮します。
また、新陳代謝を高め、肌の生まれ変わりを促進するので、シミや陥凹にも有効です。
それに、体内から改善ができるため持続性もあります。
2つ目は、関節炎や脊髄周囲炎の改善です。
幹細胞から分泌される抗炎症物質は、関節や脊髄の炎症を抑えるのに有効です。
また、細胞の増殖や分化が活発化するため、関節や脊髄の修復にも高い効果が見込めるのです。

3つ目は、肝機能の回復です。
幹細胞は、投与すると損傷を受けた組織に集まり、修復する性質があります。
そのため、点滴による投与で肝機能を回復させることができ、肝移植よりも患者さんへの負担が少ないメリットがあります。
また、血小板の点滴投与を同時に行うことで、さらに効果を高めることもできます。
4つ目は、脳機能の回復です。
脊椎注射もしくは点滴によって幹細胞を投与することで、幹細胞が脳の損傷を回復し、脳神経を再生させます。
これにより、手術が難しい部位の修復や、完治が困難な後遺症に対しても効果があります。
5つ目は、自己免疫疾患の治療です。
慢性関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病などがあり、いずれも免疫系の障害により、自らの組織や臓器を損傷させる疾患です。
幹細胞を投与することで、患者さんの免疫系の機能を正常化し、ダメージを受けた組織や臓器を修復させることで、病気の回復が見込めます。

幹細胞治療の方法

幹細胞治療の方法
幹細胞治療の一般的な流れを説明します。
まず、患者さんに幹細胞治療の説明とカウンセリングを行います。
この時、不安や疑問があれば質問し、了承する場合には同意書を記入しましょう。
次に、局所麻酔を使用し、患者さんの腹部から少量の脂肪を採取します。
簡単な手術なので、入院の必要はありません。
そのあと、脂肪から幹細胞を抽出し、細胞培養加工室で培養します。
十分に培養された幹細胞は、患者さんに点滴もしくは注射にて投与されます。
治療後は、体調変化を確認するために、経過観察が行われます。

幹細胞治療Q&A

幹細胞治療Q&A
幹細胞治療を検討する患者さんからのよくある質問を紹介します。

健康保険は適用されますか?

ほとんどの治療が自由診療のため、美容はもちろん、病気の場合にも健康保険は適用されません。
また、幹細胞治療は最新の医療技術のため、費用も高額になります。
しかし、現代の医療では完治が難しい病気や、後遺症の治療にも効果がある治療法ですので、選択肢の1つとして検討することをおすすめします。

どのように採取するのですか?痛みはありますか?

脂肪組織の採取は、へその下を5mmほど切開して行います。
ただし、局所麻酔をするため、患者さんへの負担は少なめになっています。
もし痛みが心配な場合には、鎮痛麻酔をすることも可能です。

進化を続ける再生医療は美容・医療ともに広く活用されている

進化を続ける再生医療は美容・医療ともに広く活用されている
再生医療は、美容や医療に幅広く取り入れられています。
そのため、手術や薬では完治が難しい病気や、肌に悩みを抱えた人への新たな選択肢となっているのです。
再生医療は、人が持つ再生力を活かした治療法のため、安全性が高く、リスクが少ないことが特長です。
また、体の内側から改善するため、効果が持続しやすいのも魅力の一つです。