ボトックス注射によるリハビリ治療について

抗加齢学会専門医/麻酔科認定医
コッツフォード良枝:監修

公開日:2020/08/06 更新日:2021/04/05

手足の筋肉や関節周りを動かしにくいという症状は、筋肉が強張ってしまって自由に動かないことが原因かもしれません。
ボトックス注射は、筋肉の強張りを取るためだけでなく、様々な場面で使われています。
シワ取り注射としても使われることのあるボトックス注射は、表情筋などターゲットにした筋肉の強張りを取って柔らかくすることが出来る治療なのです。
この記事ではボトックス注射によるリハビリ治療の特徴を、紹介していきます。

脳梗塞の後遺症への治療

脳梗塞の後遺症への治療
ボツリヌストキシンの効果は、神経が発する筋肉を収縮させようとするシグナルを止めることにあります。
神経が原因で筋肉が強張ってしまう痙縮のために、関節が自由に動かなくなってしまうという症状がある場合にボツリヌストキシンを注射すると、筋肉の強張りが取れて関節が動かしやすくなるのです。
自由に手足を動かせなかったので日常生活に介助が必要だった患者さんが、手足の筋肉の痙縮が取れることによって衣服の脱着や入浴などがしやすくなり、生活でできることが増えていくことになります。
日常生活の中で、他人の手を借りずにできることが増えるのです。

そんな神経が原因で筋肉の強張りが生じる痙縮は、脳梗塞などの中枢神経の障害によって引き起こされます。
筋肉を動かす運動神経を調整して身体をコントロールする脳の部分が障害されることによって、繊細な力の調節ができなくなってしまい、筋肉に力が入りっぱなしになってしまうのです。
障害された脳は自然に回復していくことが難しいのですが、痙縮の症状だけであればボトックス注射によって軽減させることができます。
筋肉の強張りが取れて日常生活でできる作業が増えることで、脳梗塞後のリハビリテーションにも良好な効果が期待されているのです。

脳梗塞後の患者さんは痙縮などの運動障害が原因で身体が上手く動かなかったり、上手に身の回りのことができなくなってしまいます。
身の回りのことを介助して貰うことになりますが、自分で行う動作が減ったり、歩けないからとベッドの上で過ごす時間が延びていってしまうと認知症のリスクが上がったり、筋肉が落ちて様々な動作がさらに難しくなってしまいます。
ボツリヌス療法によって日常動作をできるようにしたり、簡単な運動がスムーズにできるようにすることで、これらの身体機能低下を予防することができるのです。
必要に応じて脳梗塞後の経過ではボツリヌス療法を併用することが多いです。

その他の痙縮やけいれんの治療

脳梗塞に限らず、様々な痙縮に対する治療としてボトックス注射が選択されることがあります。
筋肉の強張りを緩和させる効果が期待できるため、日常生活をより過ごしやすくするために選択されるだけでなく、ピクピクすることが気になって仕方がない、という患者さんにもボトックス注射が行われることがあります。
瞼や顔面の痙攣、重度の腋窩多汗症でもボトックス注射が使われるだけでなく、外眼筋のこわばりで生じた斜視や喉の痙縮によって生じた発声障害にも用いられることがあります。

治療方法

ボツリヌス療法の治療方法
ボツリヌス療法は、ボツリヌストキシンを強張りが気になる筋肉に注入することで行われます。
それぞれの筋肉によって注入するべきポイントや注入量が決められているので、それに則って注射を行うことになります。
1回の注射は15分から30分程度で終わってしまうことが多く、外来通院でも行うことができる治療です。
ボツリヌストキシンは注射した筋肉の周辺のみに作用し、狙っていない筋肉以外には効果を発揮しないため、手足の筋肉などの運動に関わる他の筋肉には影響を与えません。
ボツリヌス療法の効果は3ヵ月から4ヵ月であり、そこから徐々に効果が薄れてくるため、効果を持続させたければ定期的に通院して注射を受ける必要があります。

ボツリヌス療法(ボトックス注射)の治療後の効果

筋肉の強張りを解除することが出来るボツリヌス療法では、痙縮を実感している患者さんだけでなく、それをサポートしている家族に対しても様々なプラスの作用が期待できます。
ここではボツリヌス療法によって、患者さんやその家族が得られる治療後の効果をいくつか具体的に紹介します。

日常生活の動作が楽になる

ボツリヌス療法によって痙縮していた手足の筋肉が柔らかくなります。
肘や膝などの関節が曲げ伸ばししやすくなることで、制限されていた動作が少しできるようになります。
具体的な日常の動作で言えば、手洗いをしやすくなる、衣服や日常的に使用する装具がつけやすくなる、靴が履きやすくなるなどの普段の暮らしに関わる動作が出来るようになります。
その他にも、自由に手足が動くことによって治療前はぎこちなかった歩き方が改善され、スムーズに歩けるようになる効果も期待できます。
治療後は治療前の2倍の速度で歩けるようになった、という効果もあるくらいに患者さんの生活動作改善に有効な治療法なのです。

リハビリが行いやすくなる

脳梗塞後のリハビリテーションでは運動に関することだけでなく、日常生活で役立つ動作についてもトレーニングを行うことになります。
手足などの運動や動作に関わる部分の筋肉が自由に動くようになることによって、治療前よりもリハビリがしやすくなるなどの効果が期待できるのです。
リハビリがそれまで以上にやりやすくなるだけでなく、効果が実感しやすくなるため、辛く長い印象を抱かれてしまうことの多いリハビリテーションにモチベーションを高く持って挑むことが出来るようになり、リハビリを投げ出さず続けられるようになります。

痛みが緩和される

筋肉が脳梗塞などの影響で強張っていると関節が固まってしまい動きづらいだけでなく、動きの悪い関節の分を補おうとして他の関節や筋肉が必要以上に頑張ってしまうことがあります。
そのため手足の痙縮を感じている人は、痙縮の無いはずの肩や腰の痛みを訴えたりすることがあります。
ボツリヌス療法によって筋肉の強張りが取れて関節が動きやすくなることによって、無理に動かしていた部分の負担が無くなり日常的に感じていた節々の痛みが緩和されることになります。
脳梗塞後、持続的に抱えていた痛みが無くなるため、生活がよりしやすくなったりリハビリに対するモチベーションが高まる効果も期待できるのです。

介護者の負担が軽減される

ボツリヌス療法によって手足の筋肉が自由に動くようになると、痙縮を感じていたときはできなかった日常動作ができるようになります。
着替えや入浴、食事などが自分一人で行えるようになると、介助者が手伝わなくてはならない動作が減少します。
また、動きがぎこちなかったことで生じていた身体の節々が痛むなどの症状が緩和されることによって、患者さんの訴えもボツリヌス療法をする前より減るでしょう。
これが介助者の負担を減らすことに繋がり、患者と介助者の双方に余裕が生まれ、良好な経過を送れるようになるのです。

ボトックス注射の進め方


ボツリヌス療法は即効性が高く、効果も感じやすいのですが生きているの間は定期的に注射を続けなくてはならない治療であることなど、ボツリヌス療法のメリットとデメリットがあることを把握しておく必要があるのです。
そのために定期的に通院して、治療を継続していくことができる環境にあることが必要です。
他にも様々ある痙縮に対する治療の中から、ボツリヌス療法を合意の上で選ぶのだとしたら、投与日を予約することになります。  ボツリヌス療法は初回の投与日はもちろん、今後も投与を続けるのであればその都度必ず予約しなくてはならない治療です。
ボツリヌストキシンは病院に常時置いておくことができず、厳重に管理されている薬であり、いつ受診してボツリヌス療法を受けるのか、ということを医師の先生と打ち合わせておかなくてはなりません。
一度ボツリヌス療法を受けたら、効果が切れてくる頃を計算してボツリヌス療法の予約を取ることが一般的です。
筋肉が少し強張るようになった、ピクピクしてくることが増えたから緊急で注射してくれ、と外来に駆け込んでも対応しては貰えないことは注意しなくてはなりません。  ボツリヌストキシンを痙縮を取りたい筋肉に注射したら、しばらく痙縮改善の経過を観察することが一般的です。
この経過観察はボツリヌストキシンの効果が薄れる3ヵ月から4か月目まで行われ、この間に副作用などの異常が現れないかを確認します。
もし現れなかったら次回受診時にも予約通りにボツリヌストキシンを注射して運動しやすい状態を持続させるようにボツリヌス療法を続けますが、それと並行してリハビリテーションにも取り組み、運動や作業に関する機能をトレーニングして回復させていく必要があります。
リハビリテーションは治療薬ひとつ分の効果があるとも言われるくらい重要なものなので、ボツリヌス療法と同じくらい頑張って取り組んでいきましょう。<h2><span id=ボトックス注射の副作用

の副作用
ボツリヌス療法にも副作用が存在します。
一般的に知られているのはボツリヌストキシンを注射した部位が腫れたり痛んだり、赤くなることや熱を持ったような感じがあるなどの変化です。
こうした局所の変化は薬に対するアレルギー反応が原因であることも多く、一般に薬が合わないという状態だと言えます。
このアレルギー反応が全身に影響を及ぼした場合、全身の倦怠感を訴えるなどの症状が現れることもあり、注意が必要です。
また、筋肉の強張りを取るためにボツリヌストキシンを注射したはずなのに効きすぎてしまい、今度は力が入りづらくなってしまうなどの症状が現れることもあります。

これらのボツリヌス療法による副作用はあくまで一過性のもので、ボツリヌストキシンが体内で代謝されていけば自然に無くなっていく症状です。
しかし、注射を行うたびに症状が現れたり、症状の重さに耐えられないなどのケースではボツリヌス療法を中止したほうが良いこともあります。
これらの症状だけでなく、ボツリヌストキシンを注射してから体調が変わった、ということがある場合には些細な症状でも構いませんので医師に相談して、判断をあおぐことが必要だと言えるでしょう。

ボツリヌス療法(ボトックス注射)の治療費

ボツリヌス療法は美容外科などでシワ取りに用いられた場合には保険適応外となりますが、筋肉の痙縮などで生活がしづらいなどの場合であれば保険適用となります。
保険適用となる疾患の場合、医療費の総額や患者さんの年齢、注射を行う部位や範囲によって異なりますが、1割から3割の負担でボツリヌス療法が受けられます。
最終的な費用負担については、治療を始める前に病院に確認をしてください。
金額面についても納得した上で、ボツリヌス療法による痙縮治療に取り組みましょう。

検討する方へ

検討する方へ
ボツリヌス療法は筋肉に注射を行うことで強張りを介助し、関節の動きを改善できる治療法です。
侵襲が少ないため患者さんの身体的な負担は少なく、保険適用となる疾患であれば経済的な負担も抑えられます。
そのため、関節の動きづらさを自覚しているのであれば医師に相談してみて、様々な治療の選択肢を提示して貰うことから始めるのが良いでしょう。